A
- Anachronism(アナクロニズム)
- 時代錯誤。本来あるべき時代とは異なる時代の要素が紛れ込んでいること。歴史小説では通常は誤りとされるが、実験的・風刺的な作品では意図的に用いられることもある。
- Anagnorisis(アナグノリシス)
- 物語における「認識」や「発見」の瞬間。登場人物(あるいは読者)が重大な事実に気づく場面を指す。悲劇では主人公が自らの致命的な欠点や状況の真実に気づく瞬間を指す。
- Antagonist(敵対者)
- 主人公の目的を阻む人物・勢力・概念。必ずしも悪役である必要はなく、単に主人公が望むものの前に立ちはだかる存在であればよい。
- Archetype(元型)
- 普遍的に繰り返し現れる人物類型・象徴・状況。ユングは元型を集合的無意識の中に存在するものと位置づけた。文学における例:英雄、影、賢者、トリックスター。
C
- Catharsis(カタルシス)
- アリストテレスの『詩学』に由来する語。悲劇の終わりに観客が経験する感情の解放——憐れみ、恐れ、あるいはその両方。芸術によって浄化される感覚を指す。
- Chiasmus(交差対句法)
- 一つの節の語順を、次の節で逆転させる修辞技法。「国があなたに何をしてくれるかを問うな——あなたが国に何をできるかを問え」がその典型例。
- Cliffhanger(クリフハンガー)
- 章や節を緊張が最高潮に達した瞬間で終わらせ、読者に続きを読ませる物語技法。効果的なクリフハンガーは単なる中断ではなく、答えの出ない問いを生み出す。
- Conceit(コンシート)
- 数行、あるいは詩全体にわたって展開される、手の込んだ意外性のある比喩。形而上詩人(ダン、マーヴェルなど)は、突飛なコンシートで知られる。
D
- Deus ex machina(デウス・エクス・マキナ)
- 文字通り「機械仕掛けの神」。登場人物を、一見不可能な状況から救い出す不自然な展開の仕掛け。一般にプロットの欠陥とみなされる。
- Diegesis(ディエジェシス)
- 物語世界そのもの——物語宇宙の内部に存在するすべて。映画における「ディエジェティック・サウンド」とは、作中の登場人物が実際に聞くことのできる音を指す。
- Dramatic irony(劇的アイロニー)
- 観客や読者が、登場人物の知らないことを知っている状態。悲劇やサスペンスの基本的な技法。
E
- Ekphrasis(エクフラシス)
- 文学作品の中で、絵画・彫刻など視覚芸術作品を生き生きと描写すること。キーツの「ギリシャの壺に寄せるオード」が古典的な例。
- Ellipsis(エリプシス)
- 三点リーダー(……)で示される、語句や場面の省略。フィクションにおいて、間、途切れる思考、あるいは何かが伏せられている感覚を生み出す。
- Epistolary(書簡体)
- 手紙、日記、メール、メッセージなどの文書を通して語られる物語形式。全知の語り手なしに、複数の声と視点を持つことができる。
F
- Fabula(ファーブラ)
- 実際に起きた出来事を時系列順に並べたもの——何が、いつ起きたか。読者に出来事が提示される順序や方法である「シュジェット」と区別される。
- Foil(引き立て役)
- 特定の資質を際立たせるために、別の人物(通常は主人公)と対比される登場人物。シャーロック・ホームズとワトソンが古典的な組み合わせ。
- Foreshadowing(伏線)
- 物語の後半の出来事を予感させるヒントや手がかり。効果的な伏線は、振り返って初めて見えるものであり、それ自体を目立たせてはならない。
I
- In medias res(イン・メディアス・レス)
- 文字通り「物事の真っ只中へ」。前置きなしに、行動の途中から物語を始める手法。背景となる事情は後で明かされる。ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』はいずれもこの形式で始まる。
- Interiority(内面性)
- 登場人物の内面生活——思考、感情、知覚、出来事の解釈——の描写。深い内面性は散文フィクションが持つ独自の力の一つ。
L
- Leitmotif(ライトモティーフ)
- 繰り返しによって象徴的な意味を帯びる、反復するイメージ・言葉・主題。ワーグナーのオペラに由来し、特定の登場人物や概念に結びつく音楽的フレーズを指す。
- Litotes(黙説法)
- 否定を用いた控えめな表現。「悪くない」で「素晴らしい」を意味するなど。典型的な英国風の技法で、戦略的に用いると、述べている以上のことを暗示する。
M
- MacGuffin(マクガフィン)
- 登場人物を動機づけ、プロットを推進する対象や目標でありながら、その具体的な正体自体は最終的に重要でないもの。『パルプ・フィクション』の鞄、『マルタの鷹』などが例。アルフレッド・ヒッチコックがこの語を生み出し、広めた。
- Metafiction(メタフィクション)
- 自らがフィクションであることを自覚的に示す作品——小説の「第四の壁」を破るもの。ポストモダン文学はメタフィクション的技法を多用する。
N
- Narrative distance(物語的距離)
- 語り手が登場人物や出来事にどれだけ近い、あるいは遠いか。近い三人称の語りは親密に感じられ、遠い全知の語りは報道的に感じられる。
P
- Pathos(パトス)
- 感情への訴えかけ。修辞学ではアリストテレスの三つの説得手段の一つ(エトス、ロゴスとともに)。物語では、読者に悲しみ、憐れみ、共感を呼び起こす性質を指す。
- Peripeteia(ペリペテイア)
- アリストテレスに由来する語。運命の急転——通常は主人公にとって良い状態から悪い状態への転換。悲劇の転換点。
- Polyphony(ポリフォニー)
- 単一の支配的な視点が解釈を統制することなく、複数の声が共存する物語形式。ドストエフスキーの小説がその典型例。
S
- Subtext(サブテキスト)
- 場面や会話の語られない次元——文章の表面の下で暗示され、感じられ、抑えられているもの。優れた会話文にはサブテキストが満ちている。
- Syuzhet(シュジェット)
- 物語の出来事の配列と提示のされ方——「何が」(ファーブラ)に対する「どのように」。回想、省略、額縁構造はシュジェットの手法。
U
- Unreliable narrator(信頼できない語り手)
- 自己欺瞞、限られた知識、意図的な欺き、精神的な不安定さなどにより、出来事の説明を完全には信用できない語り手。『日の名残り』『ゴーン・ガール』『ロリータ』などが例。
V
- Verisimilitude(真実らしさ)
- 真実であるかのような、あるいは現実であるかのような見た目や性質。ファンタジーのように完全に架空であっても、その世界が一貫して信憑性があると読者に納得させる度合い。
- Vignette(ヴィネット)
- 短く印象的な場面やスケッチ。伝統的な展開を持つ完結した物語ではなく、ある瞬間を覗き見る窓のようなもの。
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